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とある万引き少年の告白(小学)

それは偶然の出来事だった。当時小5だったぼくは近所の駄菓子屋でビックカツやガムを買って食べるのが大きな楽しみのひとつで、その日も買いに行った。ビックカツとガムを持ってレジのおばちゃんのところに行く。そこで手に持っているものを見せて会計する。カツとガムで50円になるはずだった。ところが

「30円ね」

おばちゃんはそう言った。ぼくは耳を疑ったがその訳がすぐ分かった。ガムがちょうどカツの下に隠れていて見えなかったのである。ぼくは20円得した気分になって嬉しかった。そしてこれがその後の万引きの引き金になってしまったのだった。


次に同じ駄菓子屋に行った時、ぼくはカツの下にガムを見えないように持っていればまた得できるかなと思った。そしてカツの下にガムを隠して会計に行った。この時は20円得しようという明確な意図を持っていた。そしてその意図は計画通りになった。こんな簡単なことで得できてしまうとは。ぼくはその後何度か同じ手口で得をしてガムをタダでゲットした。しかしそのうちに

「誰も見ていないしそのまま取っちゃえば支払いのときそわそわしなくて済むんじゃないの?」

と思うようになった。そして小さなガムから始め、大きなカツまでポケットに入れるようになってしまった。20円の得どころかまるまる得になってしまったのだ。これは何とも言えない快感だった。

この喜びを誰かと共有したい。古人も言っているが喜びは共有してこそ本当の喜びになるという。ぼくは同じクラスの2人を誘った。当時ぼくとこの2人を合わせた3人は「悪ガキ3人組」と言われていて、同級生や先生を毎日のように困らせていた。2人はすぐに乗ってきた。その日の放課後に待ち合わせて駄菓子屋で万引きをしようということになったのである。ぼくはこれまでのいきさつを説明し、大きなお菓子の下に小さなお菓子を隠すよりも直接盗んだ方が手っ取り早く量が取れること、ただし何も買わないと怪しまれるので数十円は買い、その時に下にお菓子を隠すとよい、というような指導までした。

結果は大成功だった。3人ともかなりの量のお菓子を盗み、みんなで公園で食べた。罪悪感なんてまるでなかった。そして段々と万引きはエスカレートしていった。

当時、家が近かった小1の男の子とよく遊ぶことが多かった。ぼくは小5だからかなり年は離れていて背もだいぶ違う。ぼくはこの男の子にも万引き指導をした。この頃になるともう数十円の駄菓子レベルでは満足できず、個人経営の小さなスーパーで大人のおつまみのサラミやさきいかを盗むようになっていた。この類のものは数百円はするから万引きの額は10倍以上に引き上げられていたことになる。

手口としてはこうだ。サラミの袋はかなり大きいからポケットに入れることはできない。ではどうするかというと服の下に隠してしまえばいいのだ。この時はこの小1の男の子のお腹に入れ、ぼくが彼をおんぶして店の外に出た。結果は成功だった。

そのうちお菓子だけでは物足りなくなり文房具まで盗んだ。大きなスーパーの文房具売り場で3色ボールペンを盗んだ。この時は防犯カメラとか色々なものが気になって、かなり冷や汗をかいたが盗むことができた。しかしこんな思いまでして盗みたくはない。文房具はこの1回限りだった。学校でその盗んだ3食ボールペンを使ってみるのだが、これが盗品であるということで心が落ち着かず、誰かに言い出されでもしたらと思うと気が気でなかった。やはり食べたらなくなってしまう駄菓子が手頃だ。そして時々ちょっとぜいたくにサラミというのがいい。

いつも行っている駄菓子屋とスーパーだけでは面白くないので今度は範囲を広げることにした。家の近くに中学校があり、その近くに駄菓子屋があった。そこでも盗むようになった。そしてそれだけでは物足りなくなって、レジから直接お金を盗んだらいいんじゃないかという悪魔のささやきが聞こえた。思ったら実行である。隙をうかがって手を伸ばそうとした時おばちゃんが奥から出てきてしまったのですぐに逃げた。それからはその店に行かなくなった。やはりお金を取るというのは心理的にも実行面からもかなりハードルが高いと感じた。やはり普通にお菓子を取るのがいい。

線路を越えた向こう側に肉屋でお菓子も売っている店があり、そっちでやることにした。ところがここはおばちゃんの監視がかなり厳しくて取るには取れたのだが、とある日

「おまわりさんだよ!」

と言われてしまった。さすがにこの日は未遂だった。ぼくはこの日以来万引きをすることが怖くなった。さらに3人組のうちの1人が先日の万引きの件を担任の先生に言い、その店に謝りにまで行ったというのである。ただ担任はぼくに対して

「お前万引きやってるのか?」

と言ってくることはなかった。証拠がなかったからだろうか。しかしこの言葉を担任からいつかけられることになるのだろうと毎日ヒヤヒヤするようになり、ぼくはこれ以降万引きからきっぱり足を洗ったのだった。別にお金がないとか毎日食べるものがなくてひもじいとかそういう理由でやっていたのではない。ただ面白いからやっていただけだった。それがばれて怒られるということになるのであれば面白くなくなってしまう。


中学校に入るとたまに誰々が万引きしたとかいう話になることがあった。ぼくは

「中学にもなって馬鹿だなぁ」

と思っていた。もう盗みたいとかいう気持ちはみじんも起きなかった。しかし高校生になってから毎日がつまらなくて万引きでもすれば少しは面白くなるかもしれないと思い、ホームセンターで何か使える工具でも盗んでやろうと思って店に入ったものの、通路をうろうろするだけで全く盗めなかった。監視が気になるとかそういうことではない。罪悪感からだった。ぼくにもまともな罪悪感が生まれていたということは喜ばしいことだった。

その後高2でバイトを始めてお金を稼ぐようになり、1ヶ月で8万円手にした。この時に、

「ああ、人は汗水流して働いてお金を稼ぐのだ。ものを盗むということは労働に対する冒涜なんだな」

と思った。当時高校ではお昼になると売店でパンが売られていて、かなりごったがえしていたのだが、そのどさくさにまぎれてパンを万引きする生徒が同じクラスにいた。パンを作った人の気持ちを考えたらそんなことはできないはずなのにとぼくは思うのだった。その生徒は医学部に進学して医師になった。

大人になってから父と話す機会があった。実は父の実家は駄菓子屋をやっていたのだった。そして父は店からお菓子をよく取って食べていたという。さらにレジからお金を抜いてラーメンを食べに行っていたという。とんでもない小学生である。ぼくはレジからお金を抜いたことはなかったから父の方が悪い子で少し安心した。そして父はラーメン屋に帽子を忘れて、よく来る子供だからと店の人が覚えてしまっていて帽子が家に届けられてラーメン屋に行っていることはばれたそうだが、お金を盗っていたことはばれなかったらしい。儲けはどうでもいいどんぶり勘定だったのだろう。祖母に

「お父さんってレジからお金抜いてたの?」

と言うと

「ははは、○○ちゃんはそんなことをする子じゃないよ(笑)」


と言い、何も知らない様子だった。

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