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給食のエレベータに閉じ込められておしっこをしてしまった話(中学)


ぼくは子供の頃からエレベーターが好きだった。あの何とも言えない臭いと、床を貫通させた穴をカゴが動いて人を移動させるその仕組み、ドアやボタンの細かい作り、そういうものが全部好きだった。そして特にエレベーターの機械室には特別の興味を持っていて、小学校の時に海の近くにある父の会社の保養所に泊まった時、屋上のエレベーターの機械室のガラス窓から中が見えたので、ロープが円盤に沿って動いている様子をずっと眺めていた。海で遊ぶよりそれを見ている方が楽しかったのである。

家の近くの図書館にはエレベータがあり、鍵のスイッチがついていてRun、Stopなど書かれており、Stopになっているとエレベーターは動かなかった。どうにかして機械室を見たいと思ったがどこにもなかった。一般の人が入れない区域から入るのだろうか。ぼくはもどかしくて階段の踊り場部分壁に耳を当ててエレベータが動く音を聞いたりしていたが、なぜか名札の安全ピンで壁に小さな穴を開けてしまった。今でもその図書館に行くと穴を確認することができる。

小学校には給食用のエレベータがあった。2クラス分の給食が乗るかなり大きなワゴンが使われており、それに合わせてエレベータも大きかった。4時間目の終わり頃になると給食のおばさんがそのエレベータを使って給食が乗ったワゴンを廊下に運んでくる。授業が終わったら給食当番がワゴンから給食を教室に運んでみんなに配膳し、給食の時間が終わったら空の食器をワゴンに戻してエレベータホールまで運んでおく。エレベータには乗せない。エレベータホールにワゴンを戻しておけばいいのだ。

ぼくはちょっとそのエレベータをいじりたくなり、ボタンを押して操作してしまった。すぐに止めて元の位置に戻したが、やはり物足りなくなってドアを開けてワゴンを1台押し込み、ドアを閉めて1階の給食室に送っておいた。すると次の日の朝の会で先生が

「昨日給食のワゴンが給食室に送られていました。危ないからエレベーターは絶対に動かさないように!」

とみんなに注意していた。全校生徒が注意を受けたのだと思う。この時はぼくがやったことはばれなかった。

中学校にあがると同じように給食用のエレベータがあった。しかし小学校のものと比べると小さかった。ワゴンがクラスごとで小さかった為だろう。このエレベータもぼくの興味をそそった。そして今度は

「乗ってみたい!」

と思うようになってしまった。ところがこういう業務用エレベータは内部に操作盤がないから中から操作することができない。人が乗るように想定されていないからそういう設計になっているのだ。これではぼくが乗っても乗りこむことができるというだけで動かないからつまらない。そこでぼくは友達に外から操作を頼むことにした。

このエレベータの構造を説明するとまず外側の扉しかない。人が乗るエレベータでは動くカゴ部分にもドアがついていて、建物を貫通する部分の壁が見えないようになっているが、業務用エレベータは内側の扉は必要ないからない。ということは中に乗っていれば動いている時に建物を貫通する穴の壁が見えることになる。次に外側にある操作盤だが、階のボタンとストップのボタンしかない。人間が自分のいる階のボタンを押せば、カゴがどこかの階にいる場合はカゴが自分の階に移動してくる。カゴが自分の階にいればボタンを押しても何も起きない。そしてカゴが自分の階にいる時に別の階のボタンを押せば、カゴはその階に向かって移動していく。最後に扉の開閉だが、扉は完全に閉まっていないと自分の階にあるカゴを別の階に移動させることはできない。一度カゴが自分の階を離れてしまえば扉にはロックがかかってちょっとの遊びの2センチぐらいしか開かなくなる。扉は2枚あって中央で閉まって上下に開けるタイプだった。


とある日の昼休み、適当な時間をみはからってぼくは3階からエレベータの扉を開けて中に乗った。そしてドアを閉めて友達に操作してもらい、2階に送ってもらうことにした。いよいよ友達がボタンを押す。

ガチャン! ウィーーン

エレベータが下に動き出した。これは楽しい! 薄暗いが壁が動いて見える。内扉がないからだ。カゴが2.5階に来た時、

ガチャン! 

エレベータが止まってしまった。なんということはない。友達がStopのボタンを押したからだった。計画にはなかったがそれはそれで楽しかった。しかしここからが不幸の始まりだった。彼はそのあと階とStopのボタンを交互に押し始めたのだった。

ガチャン! ウィーーン ガチャン! ウィーーン ガチャン! ウィーーン ガチャン!

これも非常に楽しかったのだが、最後にガチャン!と音がしてからしばらくして上の方から

「壊れた! 壊れた!」

と言っている友達の声が聞こえた。ぼくは不安になった。最初は冗談かと思っていたが不安は的中した。エレベータが本当に壊れてしまったのである。友達がボタンを押してもエレベータはうんともすんともいわなくなったのだ。これはまずい。なにがまずいかといえば先生にばれることがだ。ぼくは覚悟して待っていた。すると上から先生の声が聞こえた。

「とら、大丈夫か!」

「あ、はい、大丈夫です」

「息はできるのか?」

「できます」

そんなやりとりを何回かして上の階が騒がしくなってきた。まわりに生徒が集まってきたからだろう。そして先生が

「修理業者に連絡したからそのままにしてろ」

と言ってきた。それからほどなく5時間目のチャイムが鳴った。

まさかこんなことになるとは。ちょっと下の階に行ってその後一旦戻って給食室にも行ければいいかな〜、などと軽く考えていたのに計画が完全に狂ってしまった。さらに先生にばれたのはまずい。またとらが何かしでかした!ということになってしまう。そんなことを考えながらぼくは油臭いエレベータの床に座って助けを待っていた。

ところがしばらくしてトイレに行きたくなってきてしまった。先生の話だと修理業者が来るのに数時間かかるということだった。ぼくは我慢することにした。

しかし我慢にも限界がある。ずっと我慢していて段々耐えられなくなってきた。しかしここでお漏らしのようなことをすることは絶対にできない。給食のエレベータだからである。もしそんなことになれば全校生徒のひんしゅくをかうことになる。そう考えたら末恐ろしくなった。そんなことを頭の中でぐるぐる考えていたのだが、とうとう我慢ができなくなってしまった。これはもうおしっこをするしかない。しかしどこにすればいいのだろう。床にすれば痕跡が残ってしまう。壁との隙間にすれば給食室までおしっこが落ちてばれる。うーん、と考えた挙句、もはやもうこれは目の前の壁にしてしまうしかないな、と思ったのだった。

横から見るとエレベータはちょうど「コ」の字のような形で、目の前にはコンクリートの壁があった。つまり2階の天井と3階の床部分である。ここが均一な壁ではなくくぼんでいて、そこにおしっこをできそうな感じだった。しかし最悪の場合も想定した。それは2階部分の扉の上部からおしっこが出てきてしまうことである。しかしもう我慢の限界にきていた為、覚悟を決めたぼくはズボンのチャックを開け、膝をついて壁めがけておしっこをしてしまった。

なんという快感だろうか。この時、エレベータに閉じ込められた人の一番の問題は尿意だと分かった。便意でなくてまったくよかった。ほっと一息ついたのも束の間、しばらくしてまた尿意が襲ってきた。特定の状況下でなぜかトイレが近くなってしまうということは多々ある。それが家であれば何の問題もないが、今は給食のエレベータの中である。壁とはいえここで何回もおしっこをすれば2階から出てきてしまうかもしれない。それが怖かったのでぼくはまた限界まで我慢することにした。

もう放課後になっていた。上の方でがちゃがちゃ音が聞こえ、どうやら修理業者が来たようだということが分かった。

「もうすぐだぞー」

と先生の声も聞こえた。尿意はまた限界に近づいてきている。しかしここですれば音が聞こえてしまうかもしれないし、もしエレベータが動き出したらまずい。ぼくは我慢を続けることにした。そして次の瞬間

ガチャン! ウィーーン

ようやくエレベーターが動き出したのだった。薄暗い中でぼくは自分がおしっこをした壁が段々下になっていくのを眺めていた。そして3階の床部分が見えてきて、それが段々下がり、たくさんの足が見え始めた。修理業者が外の扉を開けて作業をしていたからだった。

ようやく現実に戻れる! 足が段々ふくらはぎ、ふともも、腰と見えてきて、ようやくみんなの顔まで見えた。遂にエレベータが数時間ぶりに3階に戻ったのである。そこには担任や教務主任、友達やらいろんな人が何とも言えない表情で立っていた。そして見慣れた顔があると思ったらうちの父親がいた。学校から連絡を受けて飛んできたらしい。

ぼくは自分からエレベータを降りてみんなによかったねなどと言われたのも束の間、すぐに説教が始まりそうだったので

「ちょっといいですか?」

と言ってトイレに駆け込んでしまった。みんな唖然としただろう。救出されたと思ったらとらは飛び出してどこかに行ってしまったのだ。そのまま家に帰りでもしていたら大物になっていただろうが、ぼくはすっきりしてからその場に戻り、別室に連れて行かれてこっぴどく叱られたあと親と一緒に帰宅した。

なお、2階が気になったので叱られた後に見に行ってみた。おしっこは出てきていなかったし変な臭いもしなかった。ぼくはほっと胸をなでおろしたのだった。ところがその日以降エレベータが頻繁に故障するようになり、そのせいで何度も給食のおばさんが階段で給食を2階と3階に運ばなければならなくなった。そのことを大変申し訳なくも思ったが、それ以上におしっこのことを2階と3階の全生徒に申し訳なく思っていた。

幸いこのことはずっとばれず、自分だけの墓まで持って行く秘密として胸に秘めたままぼくは中学校を卒業した。そして数年後にこの校舎は取り壊されて新しい校舎が建てられた。だから今となってはぼくがあそこでおしっこをしたということは、誰がどうやっても証明することができないのである。

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