Header Ads

夏祭りのおひねりを盗んだ話(小5)

夏になると子供会の夏祭りイベントとして、子供がおみこしを担いで近隣をまわって歩くというものが毎年あった。ぼくが小5の時もそれはあり、おみこしを担いだ子供達が神社からスタートし、おみこしのほかにプラスチックの樽に入った水分補給用の麦茶がリアカーに積まれ、それも一緒に引っ張っていくという夏恒例の風景が町内で見られるのだった。

「またか~。めんどくさいなぁ」

ぼくはそう思って、でも参加しないわけにはいかないし、しかたなく毎年出ていた。近所の同級生、特に同性の同級生とはあまり話をしていなかったので余計参加が億劫になっていた。

しばらくおみこしを担ぐと休憩となり、樽の中の麦茶が柄杓のようなものでプラスチックのコップに入れられ、みんなで飲んで水分補給をする。それを繰り返しながら町内を一周するわけだ。やっているうちに疲れてきて、暑いし面白くないし飽きてしまった。

飽きると何か面白いことがしたくなる。ぼくはおひねりに目を付けた。小Ⅰとか小2ぐらいの低学年の児童の仕事として、頑丈な紙でできた箱を2人で持って民家をまわっておひねりをもらうというものがあったのである。

「あれがやりたい!」


ぼくはそう思って子供会の役員の父兄に

「あの箱持つやつやりたいんだけど」

と何回もお願いするのだが、あれは小さい子が持つやつだからダメだという。ぼくはここで引き下がらなかった。

「みんな小さい子でしょう。なんでだめなの? ねぇどうしてなの? なんで?」

そうやっておみこしも担がずに役員の大人にずっと付いて回って、やりたいやりたいとしつこくせがむのだった。そうしたらとうとう役員も折れて、

「じゃあちょっとだけ交代しよう」

と言ってくれた。そしてぼくは低学年だった弟と一緒にやろうと思って、

「弟とやるから!」

と言って箱を預かった。

箱はそれまでに集まったおひねりがたくさん入っているらしく、軽いはずなのに重く感じられた。ぼくは弟と家をまわってピンポーンと呼び鈴を鳴らす。そこにハッピを来たぼくと弟が立っている。すぐにこれが子供会の夏祭りだと分かった家の人はおひねりを箱に入れてくれた。小銭よりも1000円札を入れてくれることが多かった。

「こんな楽な仕事をしててさっきの2人はずるいなぁ」

そんな事を考えながらおひねり集めをしばらく繰り返しているうち、ふと魔がさしてしまった。

「中のおひねりを取っちゃおうか」

弟はそういう悪とは無縁でくりくりした目つきでおひねりの箱を持っている。その隣で兄が邪悪なことを考え始めたのだった。しかしこのおひねり集めの箱はよくできていて、上部の横長の穴は手が入らないようにかなり小さく作られていた。このままでは手を突っ込むことができない。

ぼくはどうにか手を入れたくて、おみこしの行列よりもかなり早く進み、ほかの子供や父兄に見られないよう距離を取ってから何度も箱に指を突っ込んで穴を少しずつ広げていった。やはり紙箱である。大人が頑丈に作ってはいても、子供が腕が入るぐらいまで入れようという意志を持って何回もつついていればだんだん広がってきてしまう。続けているうちに手が痛くなってきたが、とうとう穴はぼくの腕が入るぐらいに広がったのだった。

「よし」

ぼくは箱の中を探ってみた。ぺらぺらと紙の感触がある。1000円札だ。これを取ってしまいたい。しかしそのまま抜き取れば弟に見られてばれてしまう。そこでぼくは1000円札を一枚箱の中で手に取るとくしゃくしゃに丸め、手のひらで包んで見えないようにして手品のように1000円札の固まりをすっと抜き出したのだった。もちろん弟にはばれなかった。兄がおひねりの箱に手を突っ込んで何かをやっているのはもちろん見えていたが、まさか中からお金を取り出しているとは思わなかっただろう。ぼくは取り出した1000円札の固まりをさりげなくズボンのポケットに入れた。意外とうまくいってしまった。

成功した興奮はすぐに冷めた。やはり1000円では物足りない。一度悪事に手を染めたら後には引けないのだ。また手を突っ込む。1000円札を丸めて手品のように取り出す。それをズボンのポケットに入れる。スリルと快感が入り交じったなんとも言えない気分だった。そうやってぼくは合計4000円を取り出したのである。

実はここからが本題なのだ。ぼくは弟に対して、

「手を突っ込んだらお金取れるかもよ?」

と言ったのだった。そして弟に手を入れさせ、

「お金を丸めたら取ってもばれないよ?」

と言い、ぼくがさっき4回繰り返した事をそっくりそのまま弟に1回だけやらせたのだった。そして弟は悪い事をして不安そうな、でもちょっと嬉しそうな顔をしてその後のおひねり集めを続けるのだった。

おみこしがゴール地点に近づいた頃、とある設備会社におひねりをもらいに入った。すると1000円札ではなくのし袋を入れてくれた。今までにないパターンである。ぼくはそののし袋がどうしても気になり、欲しくてたまらなくなってしまった。

「やっちゃおう」

ぼくはそれまでと同じ手口でのし袋を箱から取ろうとした。でもなかなか丸まらない。ゆっくり急いでがんばって小さくして、弟がよそ見をしているすきに箱から抜き出した。急いでそれをポケットにしまい込む。

ほどなくおみこしがゴール地点に到着する。みんなお疲れ様ということで真ん中にアイスがちょっと入ったかき氷が配られた。木のスプーンでみんな美味しそうに食べている。ぼくはそんなものには目もくれずトイレの個室に駆け込んだ。そしてさっき盗み取った現金の勘定を始めたのであった。

1000円札は4枚あった。あとはのし袋だ。くちゃくちゃののし袋を恐る恐る開いてみると、そこには5000円札が入っていた。ぼくは興奮した。この短時間で小学生が9000円をゲットしてしまったのである。とんでもない罪悪感に襲われて手が震えたが、それを返そうなどという気は一切起きなかった。頭にあったのは、この興奮と現金を誰にもばれることなく家に持ち帰るということだけだった。

その後夏祭りは解散となり子供達は岐路についた。ぼくは家に着くなり弟をゲーセンに誘った。ゲーセンに着くと、

「さっき1000円取ったよね? お母さんに言わないから半分ちょうだい」

そう言って弟に1000円札を両替させ、500円を受け取った。弟をゆすったのである。弟は自分だけが1000円を取り、しかも兄に自分の弱みを握られていると思い込んでいる。しかしぼくは自分で9000円を盗んでいたのであった。とんでもない兄貴である。ぼくは自分の9000円には手をつけずに弟からもらった500円だけを使い、弟も500円使って遊んで家に帰ってきた。

それから数日経った。うちは買い食いが禁止されており、おこづかいはあったがこづかい帳をつけることを母親から強制されていた。そして買った文房具等のレシート、財布の中の現金、こづかい帳の記帳が定期的に厳しくチェックされていたのであった。ぼくはそれには載らない帳簿外の9000円があった為、おかしを買って食べたりキラキラが入ったのりを買ったり、においがするビーズを買ったり、楽しく散財していた。

ところがある日、外で長く遊びすぎて家に帰るのがかなり遅くなってしまった。そして家に着くなり、怒った母親に全財産が入ったウエストポーチを取られてしまったのである。そして母親がそれを開けると5000円が包まれた例ののし袋が出てきてしまった。

「と、とら! なんなのこれは!?」

母親は激怒した。○×株式会社と書かれたのし袋である。小学生がそんなものを持っていることはありえない。ぼくはばれたものは仕方ないと思い、この前のおみこしの夏祭りでおひねり箱から盗んだと正直に言った。しかし4000円のことは黙っていた。

「なんて事を・・・」

母親は困惑しているようだった。そしてそのままのし袋は没収されてしまった。のし袋は早く処分すべきだった。そうすれば現金だけが手元にあることになり、拾った、などとどうとでも言い訳ができたはずだ。ぼくはお金を取ったことよりも母親にばれたことのほうが怖かった。

一方1000円を盗んだことへの罪悪感を植え付けさせられ、更に500円を奪われるということをされた弟にも5000円を隠し持っていたことがばれ、

「なんだよーー!」

と言われてしまったのだった。それからしばらく経ってほとぼりが冷めた頃に

「あのお金どうなったの?」

と母親に聞くと、

「神社に寄付したよ。言えるわけないでしょ!」

と言われた。もったいないなぁとぼくは思ったが、母親からはおひねりを取るのが悪いことだとは言われなかった。だからぼくも悪い事をしたという意識はあまりなかった。

それからぼくは中学生になり、人のものを盗むことはいけないときちんと分かる人間に成長した。さらに大人になってからこのおひねり事件を振り返り、再度母親に

「あのお金どうなったの?」

と聞いてみたところ、驚くべき答えが帰ったきた。


「貯金しといたよ」

0 件のコメント:

Powered by Blogger.